スペシャルインタビュー

歴史と格式とともに、令和の調和を併せ持つ「京都市立新町小学校」

京都御所の西方に位置する京都市立新町小学校は、1997(平成9)年に開校され、まだ新しい校舎や近代的な設備が魅力的な学校です。しかし歴史をさかのぼると1869(明治2)年に京都の住民自治組織であった「番組」を単位として町衆の手によって創設された「番組小学校」から脈々と続いています。その歴史は令和の時代にどのような形となっているのか?岸本直樹校長先生に、学校の特長や地域の魅力についてお話を伺いました。

「京都市立新町小学校」岸本校長先生
「京都市立新町小学校」岸本校長先生

「生きる力」を身につける教育の実践

――「新町小学校」の歴史や概要についてお聞かせください

岸本校長先生:ご覧の通り校舎も新しい学校ですが、そのルーツは明治時代にさかのぼります。住民自治組織である「番組」が自らの手で小学校を作ったのが「番組小学校」で、これは国が学校制度を定めるよりも少し前のことです。当時の京都の町における教育への意識の高さとそこに財力があったことを示すものだと思います。複数の番組小学校が後に小川小学校と中立小学校になり、その2校と滋野学区が統合されて新町小学校ができました。

――公立小学校ながら歴史と伝統のある学校なのですね

岸本校長先生:そうなんです。私も赴任した時には、建物の佇まいからも伝わってくる地域の熱量を感じ、プレッシャーで食事が喉を通りませんでした(笑)。しかし、すぐに気がつきました。この歴史と伝統は私一人でどうこう変わるものではありませんし、何より地域の力をお借りすれば知恵も経験も豊富にあるのだと。

元から地域との連携は密なエリアですから、そのお力をお借りすることで上手くことは運ぶのだと。だから私の仕事は地域と教職員の間に入る調整役という立ち位置かもしれません。

「京都市立新町小学校」外観
「京都市立新町小学校」外観

――新町小学校の教育目標、特に力を入れて取り組んでいる教育活動などを教えてください

岸本校長先生:本校では「生き方探究教育」に取り組んで11年目になります。これは主に「生き方」を考えて「生きる力」を身につけようというものです。人や社会といかに関わり学ぶ機会とするのか。自分を知り、コントロールする力を備える。課題を見つけて解決する力を養う。夢や目標を思い描く力を育む。これらの全ては人生の質を高めることにつながるものであり、学力の前にまずこれが必要だと考えています。

もちろん並行して学力を高めることも大切ですが、こうした教育の上に学力が加わることで、京都の、日本の未来を描いて引っ張っていく人材を育成できるものであると思います。

――人間形成においても重要な取り組みだと感じます。他に取り組みなどありましたら教えてください

岸本校長先生:これは本校だけでなく地域で包括した取り組みなのですが、新町小の校区である上京中学、さらに隣の烏丸中学と共に両校区の小学校および幼稚園や保育園も含めて「烏丸中・上京中ブロック KPP 保幼小中一貫教育」が行われています。地域全体で連携して健全育成に努めることから、建設的な意見交換もなされていますし、実行力も高まって全体の相乗効果が現れていると感じます。

「京都市立上京中学校」外観
「京都市立上京中学校」外観

良い意味での比較・競争であったり、各学校側も視野が広がる機会となります。その成果であるのか、上京中の生徒さんなどは、朝に校門の前で面識のない私が「おはよう」と声をかけると、皆が爽やかな挨拶を返してくれます。

地域ぐるみで子供と町の未来を育む

――課外活動や行事についてユニークな活動があれば教えてください

岸本校長先生:この地域は番組小学校が設立されたことでもわかるように、昔から教育熱心なエリアだったと言われています。それは脈々と引き継がれていて、全天候型のプールなど設備の充実ぶりも特筆です。また学校行事ではなくとも、1日中アウトドアを満喫できる催しがあったり、季節ごとにお祭があったりと、子供たちが大喜びで参加するイベントが地域主導で行われています。もちろん参加は自由ですが、子供たちの多くが楽しみにしています。

こうした取り組みにはやはり歴史を感じるところで、30年前、50年前に体験をした世代が次の世代のために奉仕してくださっているんですね。なかなか他の地域ではこれだけの熱量は見かけないもので、地域全体が明るい未来を願って行動しているという一例だと感じています。

全天候型のプール
全天候型のプール

――学校給食も配送ではなく自前で調理されていると伺いました。

岸本校長先生:これは京都市の方針で基本的にはどの市立中学校も同様のはずです。センターで一括調理をした方がコストは下がるのでしょうが、子供たちの食に対する意識の高さの現れではないかと感じています。また『なごみ献立』というメニューがあり、柴漬けやおばんさいといった、京都の歴史ある献立を季節に合わせて給食に出すことも行われています。

昔は家庭で普通に出ていた献立かもしれませんが、昨今の事情を踏まえると、こうした機会も大切だなと思っています。また子供たちが意外と和食を好む傾向にあり『なすとニシンのたいたん』が出た時には「僕ニシン好きやで」という声も聞きました。

利便性と安全性が同居する御所西エリア

――食育も充実ですね。ところで中立売通り周辺など御所の西側エリアはどんな地域でしょう?

岸本校長先生:まず地下鉄烏丸線沿線ということもあり公共交通機関の利便性が極めて高いエリアです。また静かで穏やかな住環境も魅力的です。そういえば地元の方が「お店が少ない」ということを、少し誇らし気に話されることがありました。これは「大きな商業施設などがないから不特定多数の人が歩いていない(から治安が良い)」という意味で、私もそれに気づいた時は「なるほど、顔の見える町は安心して暮らせるのだな」と思いました。

「堀川遊歩道」をはじめ、穏やかな住環境が広がる
「堀川遊歩道」をはじめ、穏やかな住環境が広がる

また古くから地元におられる方とマンションなどで新しく入って来られた方の間のトラブルも聞いたことがありません。これも歴史ある町だから成せることではないかと思っています。

――参考までに新町小学校では中学校を受験するお子さんはどれほどですか?

岸本校長先生:やはり教育に関心の高い地域であるので一定数はおられます。ただし京都の公立中学でも(市立)西京(高校附属)中学や(府立)洛北(高校附属)中学のような独自の研究校があり、どちらも新町小学校区から通学できるエリアにあり、本校に限った話ではありませんが、現在の京都市では私立中学だけでなく公立中学でも受験の機会はあります。

地元の上京中学もとても評判が良い学校ですので、中学受験をするしないに関わらず学習環境に恵まれた地域であるのではないでしょうか。私自身もまだ新町小学校でのキャリアは浅いですが、この歴史と伝統に恵まれた学校で、より質の高い教育を提供できるよう努めてゆく所存です。本日はありがとうございました。

歴史と格式、そこに令和の調和がある「京都市立新町小学校」
歴史と格式、そこに令和の調和がある「京都市立新町小学校」

京都市立新町小学校
校長 岸本直樹先生

所在地:京都市上京区中立売通室町西入三丁目457
電話番号:075-432-4190
URL:https://cms.edu.city.kyoto.jp/weblog/index.php?id=102001
※この情報は2023(令和5)年5月時点のものです。