「藤森寮」インタビュー

古き良き京都の街に集まる手作りショップ「藤森寮」

京都の町並みに溶け込む『町家』。この木造の趣ある建物は、人気を増す一方で、保存のコストや利便性の低さというデメリットもあり、年々減少の一途をたどってきている。しかし、近年はリノベーションを施して店舗として活用する事例も出てきて、注目を集めている。鞍馬口のエリアでその先陣を切ったのが「藤森寮」。アトリエとショップを兼ねた手作りショップがテナントとして集まっている。古くは学生寮として重宝されていた建物が空家になっていたところを活用したもので、今では県外から多くの方が訪れる人気スポットとなっている。今回はそんな「藤森寮」を訪ねて、「ガラス工房nazuna薺」の望月さんをはじめ、お店のオーナーさんたちにお話を伺いました。

遠方からも人が訪れる人気スポット

望月ひとみさんと「ガラス工房nazuna薺」店内
望月ひとみさんと「ガラス工房nazuna薺」店内

――素敵な建物にセンスのよいテナントばかりですね。「藤森寮」の概要を教えて頂けますか。

望月さん:元々は「学生寮」として使われていた建物で、空家になっていたところを手直しして今の形になったのが13年前だと聞いています。私は10年ほど前からですが、知人に「空きが出たよ」と聞いてすぐに入居を決めました。現在は全部で9つのお店が入っていて、ウチはガラス工芸ですが、他には一閑張りやフェルト工芸、漆器や紙細工に竹細工、そして植物のお店も入っています。どれも個性豊かで関東をはじめ遠方からのリピーターも多いようです。

望月さんが手掛けるガラス細工
望月さんが手掛けるガラス細工

――これほど素敵な空間だと入居希望の方も多いでしょう?

望月さん:確かに人気があります。そして出ていく人が少ないので、なかなか空くことがありません。そういう私も「藤森寮」の中で2回動いて今のところにたどり着きました。ただ私はキレイになったところに入りましたが、当初は「個々に直しながら使う」という条件だっということで、初期に入居された方は大変だったと思います。でも趣味のよい方ばかりなのか、とても趣のある仕上がりになっているので、私もとても気に入っています。

「ガラス工房nazuna薺」
「ガラス工房nazuna薺」

――望月さんのお店「ガラス工房nazuna薺」について教えて下さい。

望月さん:私はバーナーを用いたガラス細工を手掛けていて、他のショップさんと同様、ここは工房兼ショップとして使っています。また制作と販売だけでなく、ガラス細工、バーナーワークの体験も常時可能受け付けていて、とんぼ玉やスプーン、箸置きなど色々なコースを用意しています。ほぼ毎日体験にお見えになって、ガラス細工に触れていただいています。

藤森寮の中庭
藤森寮の中庭

――周辺でオススメのスポットがありましたら教えて下さい。

望月さん:私は空が広くて自然がある「賀茂川」が好きですね。天気のよい時は川辺を歩いて通勤することもあります。また「藤森寮」の近くは古くからある京都、という感じの穏やかな住宅街で、毎日同じ顔の人が同じ時間に散歩をしていたり、そんな温かい雰囲気が好きです。「藤森寮」の中の庭もオススメです。京都らしい風情はもちろん、表の車の音も聞こえない、本当に静かで街中のオアシスという感じです。

不便さをも楽しむ風情ある空間

「アートスペース CASAne」店内
「アートスペース CASAne」店内

続いて、奥のテナントに入られている「アートスペース CASAne」さんを訪ねて、店主にお話しを伺いました。「アートスペース CASAne」さんはニットや紙の手づくり商品の制作を手がけながら、陶器をはじめ多岐にわたる創作物も販売するセレクトショップ。お店としてはもちろん、その作品自体も書籍で大きく紹介される人気ぶりです。「藤森寮」がある京都市北区に生まれお育ちということで、鞍馬口の魅力についてお聞きしてみました。

9つのお店が集まっている
9つのお店が集まっている

――鞍馬口、そして「藤森寮」の魅力を教えて下さい。

CASAne 店主:このエリアの一番の魅力は、昔の京都がここにあるということでしょう。あちらこちらと身近に良き時代の京都を感じることができます。その一方で若い方が新しいお店を出されているので、町全体としてより魅力的になっているのではないでしょうか。

歴史を感じる「藤森寮」の外観
歴史を感じる「藤森寮」の外観

「藤森寮」は「おばあちゃん家に来たみたい」とお客さんもおっしゃいますが、そのイメージはよくわかります。ここは町家リノベーションのはしりで、最初に入居された方は改装が大変だったと思いますが、私たちはキレイになったところに入らせてもらいました。私もそうですが、皆さんマイペースに仕事をされていますよ。

リノベーションが施された建物内観
リノベーションが施された建物内観

町家や今の建築に比べると利便性は低いかもしれませんが、そんな不便さも楽しむような空気がこここにはあります。この雰囲気を東京の方なんかは特に喜ばれますね。ぜひお気軽にお越しください。

人の温もりを感じる街、鞍馬口

「夢一人」の店内
「夢一人」の店内

さらに取材に伺った時間に在廊だったのが、紙や竹に和紙を張り重ねて制作する伝統工芸、一閑張のお店「夢一人」の店主である尾上瑞宝さん。「藤森寮」が現在の形でオープンした当初から入られているとのこと。尾上さんは、400年にわたって一閑張りの技術と心得を継承する飛来一閑 泉王子家の十四代家元を務める方でした。しかし、気さくに一閑張についてご教示くださった尾上さん。こちらでも鞍馬口という町と「藤森寮」の魅力についてお伺いしました。

尾上瑞宝さん
尾上瑞宝さん

――閑張りについて簡単にご説明願えますでしょうか?

尾上さん:約400年前に中国から日本に渡った飛来一閑(ひらい・いっかん)が伝えたとされる、和紙を張り重ね渋柿や漆を塗って固める工芸の手法です。二代目で茶道具を扱う派と生活道具を作る私ども泉王子家の二派に別れたとされ、現在にいたるまでそれぞれが継承しています。当方の四代目の時には徳川吉宗将軍に天体望遠鏡を納めた実績もあり、昨年の春にその現物が長崎県から出てきて、その鑑定に私も立ち会った。そんなエピソードもあります。

――尾上さんにとって、この町、そして藤森寮はどのようなところでしょう?

尾上さん:私は「智恵光院」という通りに縁を感じてここへ入ることを決めたのですが、この界隈は本当に温かくて「ここに来てよかった!」と心から思っています。

一閑張の職人の技が光る
一閑張の職人の技が光る

私が出張などで不在の時は向かいのタバコ屋さんがいつも荷物を預かってくださり、近所の方はみな親切な方ばかりです。今日もガレージからココへ来るまでに3人の方とおしゃべりをしました。時に「これ持っていき」とお裾分けをいただいたり、困ったことがあれば駆けつけて下さったりしますよ。

そして「町家を残すのは大変だけれども保存しなければ」という大家さんの思いとともに皆さんが手を加えて素敵な空間になっているのが藤森寮です。私は自宅から車で45分くらいかかるのですが、元気で通える限り、一生ここに入っていたいと思っています。

学生寮時代の風情を残す建物内観
学生寮時代の風情を残す建物内観

個性的で魅力的な方が集まる「藤森寮」。皆さんが口を揃えるように、「藤森寮」の中にはまるでタイムスリップしたかのように古き良き時代を思わせる優雅な時間が流れていました。そして、周辺にもリノベーションを施して店舗活用されている歴史ある建物がたくさんありました。その魅力に惹かれ、リピーターが多いということも肯ける素敵な街並みです。是非、機会をみつけて散策されてみてはいかがでしょう?

古き良き京都の街に集まる手作りショップ「藤森寮」
古き良き京都の街に集まる手作りショップ「藤森寮」

藤森寮

「ガラス工房nazuna薺」望月ひとみさん
「Art Space CASAne」店主
「一閑張 夢一人」尾上瑞宝さん
所在地:京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
※この情報は2016(平成28)年12月時点のものです。